三重県津市にある「みえぎょれん」のサイトです。「みえぎょれん」や三重の海の紹介、お魚を使った料理レシピも掲載してます。

和具漁協 山本輝人さん、小村定司さん

聞き手/編者:元三重大学水産学部教授 内藤一郎氏

三重県 浜の声:伊勢えび刺し網漁業

漁場は、大島から南へかけて3マイル沖の神ノ島が中心で、そこは浅瀬になっていて、エビの繁殖には最適の場所です。神ノ島は干潮には頭を出すが、普段は水没していて昔はよく、神ノ島に機船が座礁した。わしが親父と一緒に漁師をやり立ての若い頃、55年くらい前になるかな。この前志摩は材木のないところで、たまたま難破船が材木を積んでいて、それを拾ってたこともあった。

その当時、わしのとこはエビ網と海女専門だった。いまでこそ、みな、色々の漁業を行って年中、交代でやっているが、親父と母親が対で船人海女をやったその当時と今とは随分変わったな。計器類にしても、エンジンにしても漁具もそう、機能がどんどん良くなるばっかりで魚が獲れすぎて絶えてしまうのだ。そのうえ漁が多いと値段が下がる。そこで、網数を減らして自分等で調整してやっているけどな、放っといたら獲り過ぎだがな。
とにかく獲ったら値段が下がる。去年までは、今頃エビは8,000円/㎏台の相場やったが今は4,000円、これは景気が悪いので仕方ないけど、安いからといって獲らんわけにはいかんでしょう、そういっても倍も獲ったら尚さら値が下がって、わしら業者は首を吊ることになってしまう。

今年も解禁して10月早々に、35隻あって、1隻の持つ網数が12丈なんですが、網を掛けたところ、1t300㎏揚がりました。これは揚がり過ぎなんで価格にも影響してくるから、今年は12丈を2/3に減らそうということで8丈にして、資源管理とともに価格維持を断行しました。安くしてしまうと値が上がる迄に日数がかかるから、獲る量を制限しているんです。今年の場合は、特にそれが顕著に出ていてエビが多いのです。この前志摩地区では、ここ和具がダントツに漁獲量は多いんです。隣村でも今年は500㎏や600㎏の量が揚がっていて、ただ他所は獲れる時に獲っておくという方針のようですから、そこが当地と違うところです。
この組合は、資源管理を厳しく定めてあるから、業者も約束事はキチッと守ります。エビの値段はうちが中心で決まりますから…それは選別からエビの扱い方が他所と違うのですよ。例えば網から外すにしても、傷めないためと防寒用に、一尾ずつ毛布に包んで市場に出します。それを職員が手っ取り早く大きさを選別して計量する。網から外してセリ落として、蓄養活簀に移す迄の時間が短いのも鮮度の上からみて大きいし、当然、価格面に影響してくるのですよ。県下の、いや全国のイセエビの価格構成をリードしているのは、うちの組合ですよ。

去年から今年にかけて、浜のアワビ、サザエがもの凄い減り方やんか。それは底に餌となる海藻がないわけや、アラメ、カジメ類が…海の汚れのことだけを皆が言うけれども、自然の大きな環境に影響されるんで、多少の汚れぐらいで枯れるもんやないと思う。それが証拠にエビは殖えとるんや。
イセエビは肉食だでな、藻類がなくても繁殖するんや。エビが今年多いのは海水温が高いから条件はよいと思う。イセエビは妙なものでな、海底に居って陸の上のことを知っているのか、西の風が吹いたら寒くなって、網に掛からんのよ。気象の変化が敏感に判るんかして…その時エビは穴の奥に入り込んどるでな、エビは穴には隠れていても、相当の距離泳ぐでな、棲みよいとこは各自が知っとんのさ。

私どもでは、稚エビをですね、昔は70gぐらいから市場で売買をしていたが、徐々にサイズを大きくして、現在は一般の市場では100g以下のものは出さず、組合が買取りをして、それを禁漁区へ再放流しています。
正月前に禁漁区の操業をして、また、サイズ未満をそこへ戻すのです。禁漁区で採れたエビは、120~130g以下を集めて再放流する…これを毎年、繰り返すのです。そうやって、多い時には1t近くの稚エビを放流した年もありますね。ですから平均してどうでしょう、少ない年には15tの時もありますが、最近は20t以上の水揚げはあります。

禁漁区は、皆が寄り集まって決める。古くから決まっていて変えへん。殖えこそすれ減ることはないよ。場所は大島の西側から陸の浅瀬を区域として決めてある。表示は決めんでも、漁師は経験から山と山の見通線で判っとんの。エビ網業者の集まりで、決め事があるのや。違反したら厳しい罰則がある。和具海老同盟会という組織を作ってある。

私共の水揚げはこの頃尻上りに殖えてきている。(去年は落ちているが)17年間の平均をとっても約19t獲れている。単価をみても平均で8,700円になっているが、去年が6,500円、今年は半値の4,000円台だった。これはボロエビ(傷んだもの)も含めての値段だが、今年は期末で集計したら6,000円を割るのは確実です。
ここでは放流による資源管理をしているから、このように殖えていますが、一般漁場で以前は1尾70g以上のものを販売していた。これでは小さ過ぎるということになって、平成4年までは70gだったのが平成5年で80、平成6年で90、平成7年では100gまで続けていますが、平成4年には1t87㎏の稚エビを禁漁区へ放流していることになる。その辺の努力が5年以降の殖えた要因に結び付いていると私は考えております。
ですから、エビは禁漁区へ放流しておけば余り移動しないから、正月前の値段のいい時に獲ればよいわけです。
和具では、昔から保護策が定められていて、皆がこれを守る意識ができているんです。それを決めているのは価格ですが、値段がよいからといって獲りすぎると、また下りますから、ある程度の線で多ければ網数を減らして、獲る量を一定にして調整しています。

編者:販路や価格についてもう少し話して下さい。

一般には、ロブスターをイセエビと言って料理番組なんがで宣伝しているが、ブランドものだから、価格面ではイセエビの方がよい。関サバ、関アジと同じように私どもでは、和具のイセエビをブランド品としてもっと知名度を上げたいと思っているのです。主な出荷先は、名古屋、東京方面ですが、最近は旅館、料亭の注文が少ない。全国的な傾向ですが…。

エビ言うのはな、東京の築地とかへは出さないで、商人が決まった得意先へ送っている。買うたものは活けているから、正月前になると方々から注文が入るので捌く。だから商人もえらいと思う、金のない者はよう買わないわけだ。正月まで持ちこたえないといけないからな。

獲れたエビは市場で計量し、入札して買った商人は、注文が入るまで篭へ入れて吊るしておく。捌けるのは年末年始だから、それまでの保管が大変です。餌も与えないと痩せるから…㎏4,000円のものが暮れには8,000円するかもしれないが、それまで運転資金が入ってきませんから、やりくりが大変なんです。商人は大きく扱うのは土地の方が5名程です。甲乙の2階級に分けてあって、甲は半月勘定で、乙は現金取引で決済する。漁協が中に入っていて、漁業者への精算は1日~15日の水揚げは26日支払いとなり、16日~月末は翌月の11日支払いとなる。したがって、商人は夫々の前日までに組合に納入して貰います。

編者:エビ網の操業条件はどうなっていますか?

網入時間は今は3時やな、来年になると陽が短こうなるから2時になる。その時期時期によって、一本釣りとかその他の海女の邪魔にならんように決めてある。

海女の潜っているところへ網をかけると迷惑をかけるので、全員が上がってから網入れをする。

解禁の10月が一番漁獲が多いな、11月になると10月の1/3になり、12月では1/4か、1~3月の量は知れたものよ、4月末で終わるけどな。
網揚げは、いまは5時半、10月に5時でスタートして12月中旬で6時、1~3月は5時、夜明けの時間が違ってくるよって…そういうことは同盟会の総会で決める。放流は組合で全部買い上げて放します。

100g以下のエビは1尾200円で、経費は組合と同盟会で折半負担する。小型エビはホテルなどでも需要が多く、1尾で丸々客に出せるから㎏単価が5,000円はします。100gあれば500円ですから、それをこちらが200円で買取るわけです。そのためもあって同盟会は維持費を年間4~500万円ほど残さないといかんから、禁漁区の水揚げから一部を配当しないで、そっくり運営費に残すのですよ、配当すれば1隻あたり15~17万円は配れるのだが、会へ残して貯えている。

毎年,正月前の11月中旬~12月中旬にかけて禁漁区を開ける。35隻を3等分して12、12、11隻が3日間操業するが、夫々1日だけ禁漁区を操業し、残り2日は普通の漁場へ掛けるのだ。

禁漁区の漁獲物は、一括して35隻の平等割となる。経費を除いた配当は多い年で135万円、普通は100万円くらいです。隻数は多いときで38隻あった。

編者:揚網にネットローラーを使うそうですが、エビが傷みませんか?

人力を助ける程度だから、そのようなことはありません。

わしらが若い頃は、20~30尋の深さを15丈持っていて、みな手で揚げよったもんや、今は12丈やが、5~6尋の深さでも、若いもんは手で揚げようとせんな、機械を使うよって…1丈は90尋で、沖へ行ったら短いものだ。1人乗りは3~4隻しかない、あとは2人乗りの親子が多い。
漁場の選び方は自由だが、船足の速い遅いが勝負を決める。船は5~10tで、馬力は450~550を据え付けている。
朝のうち、1時間半から2時間は、一族総出でエビを網から外す作業にかかる。獲れたものは市場へ出す。勝手に小売はできん、そうしないと統制がとれない。エビは500g揚がっても1t揚がっても、商人の一札で決まってしまうのや。
エビは10月~4月までで、5月からは銘々で、やることは違うが、5~6月にはカツオの曳網で、6月~8月にはイカ釣りになる。それが10月までイカが続く。主体は釣りになる。

編者:イセエビ同盟会員は、この組合としては多いほうですか?

35隻は少ないかもしれないが、魚と兼業しているからそういうものまで含めるとどうでしょう、1経営体当りにするとトップ級なりますか。年中、釣りというグループも250人ぐらいいます。
海女は130人(船人は5隻で、あとは徒人)、このうち10人はエビ捕りをする。素潜りです。

新しくエビ刺網をやりたいという人には強い制限が決めてあるんや。仮に釣り業者が同盟会へ入れてくれと頼みに来るでしょう、それには誰でも「はい、どうぞ」という途は付けてあるんやけど、内規で、1年目は普通の漁師の1/3より網が持てん、というきつい取り決めがあって、入っても合わんし、網の修繕は馴れんことにはやれんのや。

編者:遊漁者とのトラブルはありませんか?

遊漁者は自分の船で来る者もあります。そこで私共では、決め事をしてあるのです。
組合員が遊漁者を乗せて釣らせているのは、他の組合員の生業を脅かさないため、共同漁業権の外でやって下さい。また、町内の遊漁船については、更にその外側というような決めを作ってあります。
これらはお願いです。一本釣りは何処で釣っても構わないことになっているので、余り強く出ると紛争になりかねないから、少々は妥協することもやむを得ないかと思っています。

和具の遊漁船は、これで決めてあるから問題は無いが、他所の遊漁船が来ると、神ノ島周辺で掟をやぶっているんだけどな、自分達が邪魔になるよってと頼み込むと揚げてくれるようになっとるんです。

編者:これだけは言っておきたい、ということがあれば、お聞きしたい。

なんとか高値になるよう希望するだけや。

資源管理に関しては、漁業形態の中で、エビ網が一番団結している。私の希望としては、一般漁場で獲れた100g以下の稚エビを放流しているが、これも禁漁区で獲れたのは120gだから、一般漁場にも120gに上げて再放流したいと考えている。水技センターの話によると、年間に2~3回は脱皮するそうで、100gの稚エビだったら150gにはなると…大きいものでは180gにまで達するそうです。だから150gのものを翌年に獲れば、それだけ効果が上がります。
それに、和具エビをブランド品として強くアピールして行きたいですね。

編者寸言

イセエビの価格がバブル崩壊、景気後退によって、大幅に下落しているという話には反応が早いことに驚きました。もちろんこうした高級魚は必需品ではないし、さらに類した形のもの(味はとにかく)にとって代わられることで、価格が不安定なことは経済学の初歩的知識としてわかっています。しかし何しろホンモノ中のホンモノブランドですから、根強い需要があると思っていました。
しかし、考えてみれば今までが高すぎたのかも知れない。私が本物を食べた経験もまったく数える程ですから。イセエビに限らず、漁獲物の高級化、高付加価値化を強調し、特殊需要への傾斜にだけ依存する方向は、この辺でよく考えなくてはならないと思いました。重要な条件になると、個々のノリ作りから独立した、大加工施設を擁し販売を念頭においた別組織も考えなくてはならないでしょう。漁業者にとっての得失もよく考えて。