三重県津市にある「みえぎょれん」のサイトです。「みえぎょれん」や三重の海の紹介、お魚を使った料理レシピも掲載してます。

答志漁協 倉田昭さん、勢力利正さん

聞き手/編者:元三重大学水産学部教授 内藤一郎氏

三重県 浜の声:一本釣漁業

私は釣り専門にやっているが、その他も手がけている。

1~3月は、コウナゴ抄網に就く。場所はこの前の海で、1隻に3人乗りこんでやる。コウナゴが来遊すると、これを捕食しようとして鵜、鴎等の海鳥が数多く飛来する。この鳥山を見つけてその場所へ行くと、鵜が潜ってコウナゴ群を追うと魚群は密集して浮上するので(これを赤身と呼ぶ)、石を投げて脅しを掛けて、竹の先に鵜の羽根を縛った竿(ウザ)でもって、船の舳先と艫で脅しもって集めるのだ。

それを、どんどん回しもって真中に集める、そうしないとタモで抄えないのだ。飛沫が真っ白になるまで待って、頃合いを見て一気に抄うのだ。

抄う網は大きなタモ網で、昔は木製だったが、いまはステンレス製の直径2mの真円形の枠に、持柄(長さ2m)を取付け、枠の両端に紐を付けて、それをローラーに巻きつけて柄の根元を固定して、入魚したら思い切り引っ張ると、素早く船上に網が揚がる。 腕が良くないと一回で獲れない。モタモタしていると逃げられてしまう。タイミングが要る。1~3月は西風が強いから。

群は最初に見つけた人に優先権が与えられる、早いもん勝ちになる。配分するときもある。 船は4.2tを使っている。船が大きいと巻くのに小廻りが効かない。網の揚げ方は、昔は人手で揚げていたが、今は機械で揚げる。 人手はウザの操作(2人)と舵持ち兼網の操作の3人です。吾家では、親父と僕、それに親戚の人と3人が組んでやる。

出港は6時頃で、帰港は16時になる。16時は市が開くからだ。日に何度も漁場と港の間を、満杯の都度往復する。大きさはタバコサイズ(5~6㎝)のもの、釜揚げにするため、納屋で炊くのは商人がする。

コウナゴ抄網は、菅島、桃取でもやっている。漁場はうちの浜の前、伊良湖、大淀まで出かける。鳥付きを探すのだ。私はナマコ曳きはやらないが、イカナゴは11度を下らないと来ない。ナマコ漁の人から出現を聞くのだ。

コウナゴの次は、スズキが現われる。コウナゴはスズキの好物だから、これを餌にすると効果は大きい。船内の活簀(カンコ)に砂を敷くと持ちがよい。スズキの餌にするコウナゴを「タブリ」という。テグスに3本針を付け、流し釣りをするとマタカが掛かる。他の餌では食わない。 漁場は鯛ノ島とか、伊良湖先がよい。朝から晩まで、マズミがよく掛かる。1日1隻50本、多い時は100本も揚がる。どんなに少なくても、20本は掛かる。5時に出て終日、夫婦2人で釣り揚げる。コウナゴの時だけ妻は乗らない。

魚探で探すから騒音で逃がすことが屡々ある。これは3~6月である。それからウタセの漁に移る。これもスズキが主で4本針による撒餌釣りをする。水温が上がってくると、浅瀬に移動してくる。洗いにして食べると美味しい。

次はスズキとタイを狙う。タイは4本針の流し釣りで、酸欠になるとタイが深みに集まって来る。餌はシャコを使う。錨止めをしてスズキを釣る時は、フカセといって、柄付きの針を使う。潮の流れの速度に合わせて漁具を使い分ける。

タイは酸欠になると、シャコの仔が砂地から這い出てくるので、それを食べている、この時は、何故かエビは食べない。魚は時期によって、餌を選り好みするようである。

編者:酸欠水というのは伊勢湾内から降りてくるのですか?

そうです、今迄は夏場だけだった酸欠現象が、いまは冬場にでも起こるようになってきた。 それは錨を揚げると、黒ずんだロープに臭い匂いが付いているのですよ。

編者:ヘドロは、これだけ流れが速いと、なくなりませんか?

それが、逆にふえてくる感じですよ。伊勢湾の分もひっくるめて生活廃水とも絡んで溜まってくる。酸欠も少ない規模だと、湾内の魚をこちらへ追い詰めるが、ひどくなると、もっと沖の深みへ逃げてしまう。 そこではシャコエビが泥と一緒に掛かってくる。 ドロハゼやシャコがキス網に掛かり出すと、その後は必ず酸欠水がくる。

9~11月は、餌を撒いて寄せるタイのアンカ釣りが始まる。9月にはエビの仔が出てくる、大ダイ、小ダイ釣りの餌である。 水温が下がると、餌を撒いて集める、ポイントは毎日決まっているのだから。

編者:他の漁師との競合はありませんか?

それは自分等(相手も含めて)で決めている。余り近いところへ錨を下ろすと散るから、そうしないように申し合わせている。漁場はこの先から小築海あたりまで、西は強風で近寄れない。

編者:貴方が餌を撒いておき翌日行っても、ここは自分の漁場だと主張できるのですか?

自分等で永年の経験から、公認された場があると思って貰えばよい。一本釣業者の会(昔は同業者会といった)というのがある。マタカなんか、次に行くと待たされる。やらしてくれよと頼むと、その横でやれとなる。ポイントは最初に見つけた者の権利となる。何処でも同じだ…。

編者:漁場へは、別々にお父さんもいくのですか?

はい。沖へ出る時は父と常に連絡をとり合って、出漁の時間、漁場等を決めておきます。

編者:割合に獲れる魚も多種でなくて、時期によって決まっていますね。

タイが喰わん時はガシに変えたり、コウイカに行ったり…臨機応変に対象を変えていく。それは長年の経験から生まれる。12月になって水温が下ると、タイが喰わなくなるから、正月前にはキス網をやる。近年は3年ほどキス網はやっていない、タイが釣れているから…コウナゴ漁がないと、3月までにキス網に移る。キスは釣れない時はない、そんで、不漁の時の繋ぎになるのさ。

編者:同業会同士の会合はあるのですか?

毎年1回、問題点を持寄って解決する仕組みにしてある。その組合間交渉も業種代表が寄って相談して決めている。組の人は65~68軒ある、年配者が20人も入って来た。会の規則は作ってあるが、入会してない人が多いから、勝手なことをして困るので、私が声をかけて年配者に入って貰って、調整役をお願いしてあるのだ。年配者は20人くらいで、今日は休みと決めてあっても、勝手に出て行ってしまうのだ。それで会に入って貰えばモメ事はなくなる筈だ、こういう人達は専業の人ではない。過去に漁師をやめていた人達ばかりで、定年過ぎの方々です。

編者:イナダの曳き釣りはやるのですか?

9~10月にかけて約1ヶ月やっている。13kgのブリが釣れたことがある。

編者:夜釣りはやるのですか?

ええ、6~10月に横瀬で、アンカーの流し釣り、エビを使ってスズキを獲ります。

編者:夜釣りも奥さん同伴ですか、大変ですね。

そやで、頭はあがらんわな。(笑)

奥さんの力は強いで…家計も沖も中心やで。夫婦ペア-の操業は、昔からの慣習やで、馴れもある…。

編者:後継者はどうですか。

私は、高校生2人と小学生1人の子供3人がいる、15歳で漁業を始めた。息子が後を継ぐかどうか、私も確かめてはいない。うちは今度、上が卒業するのだが、進学したいらしい。2番目が釣りが好きだから、何とか継いでくれるといいがと思っている。

昔の我々の時のように、夏休み中に山へ行ったり、海へ行くことをしないから、今日は練習や、今日は試合やと言ってこちらを向いてくれんもん、あかんわ。

編者:一本釣業者の年齢構成は、どうなっていますか?

中心は幾つかな、40歳代前後は多いよ。60歳以上は30人ぐらいか。一本釣は親子でやっていますからね。組合員は1戸1人制になっている。家族は分家しても、出資金さえ納めれば、組合員になれる。

ここでは今、急にどうということはありませんが、遠い先はどうなるのか判りません。よく10年先は半分に減って行くといわれますが、ここではそのような激減はありません。業種の形態は変わるかもしれないが、人数の変動は少ないと思う。

編者:ところで伊勢湾口に橋を架ける話がありますが。

菅島と答志島のどのルートを通るにしても、うちの専用漁場を通るのですから、大きな打撃を受けることは間違いありません。

橋桁を造ると、結構、影響が大ありです、どうも案は決まっているらしいが、公表されていないだけです。どちらの途を通るにしても、答志の磯場は全部、やられてしまうのですよ。伊勢湾の入り口へ橋を架けるということは、魚の上り下りを停めてしまうことになるのですよ、或程度…。

橋脚は光の加減で、24時間照らしている状態が続くのですよ。それに振動と騒音ですが、何かにつけプラスになる要素は考えられません。
回遊魚などは、夜の暗いうちに遡ってくるから、時期がなくなってしまいますよ。暗黒の時間帯がなくなってしまいますから…。

編者:タチウオ釣りはやりませんか?

昔はやったが、会にはまだ入っている。水温が下ると喰わんようになる。今年は水温が高かったで10月末まで続いた。あの漁法が出るまでは手釣りだった。サワラの曳釣りもやった。

編者:一本釣の経費はどれほどかかりますか?

支出の半分は餌代です。特にエビは高価だから、月に50万はかかる。撒餌代がバカにならない。

不漁時は、撒餌代の方が水揚げよりも高く付く。燃費は漁場が近いし、錨をやっているから、そんなにかかりません。

編者:年間、どれほどの水揚げがあるのですか?

最近は少ない、いい年で2,000万、平均すると1,500万か、1,000万は割らないが。

編者:資料によると、答志全体で約10億、300経営体に見て3,000万強、1経営体2人と見ても約2,000万弱ですか。

タイ釣りに費用が多額にかかります。

タイはいままでは値段はよかったが、値が安くなったから処置なしです。バブル前の値段で行けば、2,000万は下らないでしょう、いまはどうしても半値に近いですからね。イセエビが3,000円台という時もありました。ここで獲れるものは殆ど高級魚が対象ですから、価格の暴落は大打撃ですよ。

編者:安くなった原因は何だったんですか?

ここで獲れる魚は、殆どが築地市場への出荷なんです。赤坂、銀座あたりの料亭が贔屓先なんですが、軒並みそこが潰れていますから…。答志で一番、入札が盛んな時に、12,000円/kgを付けたが、これが料理屋へ行ったら、幾らになるのかと話題にしたものです。

その時は、スズキが9,000円/kgでしたから。わしらも、夏場のスズキで勝負しよったんが、あかんわ。

今年は最高でも4,000円までですよ。6~7月になると、京都の料亭が使うので、その時だけですよね、値が張るのは…。平均すると2,000円しませんから、何んと200円/kgですよ。いまはセイゴになると20~30円です。大きい2~3kgのスズキでも、300円/kgぐらいですから…。

量は獲れるのに、値が付かんので弱るんや。

編者:活かしておいて、相場を見て出すようにはなりませんか?

高くなってくれればよいが、その保証がなければ大損せないかんから怖い。

痩せて行くし、味も落ちるから何ともならんな。

編者:ここで獲れたものは、ここへ揚げるのですか?

9割は地元出荷です。仲買人は24名いて、うち5名は他村からです。

編者:では、この辺で締めに参りましょうか。

何を措いても、値段の安いこと、これを何とか安定する方向に持って行って貰いたい。それからレジャーボートによる被害で困っている。船で来て、吾々の行く前に、錨を降ろして妨害するのだ。何でいかんのやと言って食ってかかって来よる。1隻でなく、あとから代わりの船がやって来るので弱り切っている。

漁師の釣りの邪魔をしに来るので困る、まだ錨を打たないで流しているのならよいが、邪魔にならんところへ移って下さいと吾々は頼むんだが、幾ら説得しても応じない奴がいて、困りぬいている。我々が毎日毎日餌を撒いているところに来て釣っていくのだから、たまったものではない。

もう、海の規則も何もなしで、やりたい放題ですから、マナーがまるでない。見ている前で空缶を捨てて行くし、塩ビ袋は投げ捨てるし困ったことです。

業者は、船上の使い捨ての空缶とか袋、ナイロン系のものは海へ捨てない、ということで皆、家へ持ち帰って、燃えないゴミの収集の協力する習慣になっていますから…。

これは、それぞれの会ごとに決め事を作って実行しているのです。他村からのレジャーボートが、何とも仕様がないんです。増える一方だから…。

編者:来る人は決まっているのですか、それとも不特定多数ですか?

ボートを持っているのだから決まっているのですよ。いまのボートはナビゲーターを備えてるから、どこの島であれ、みな映るから、それは正確に位置を割り出せる、魚礁まで映るんやでェ…。

それから酸欠を何とかならんかナ。今年も黒い水が出たが、海水を分析して貰ったら、栄養分がなかったという。単なる塩水というわけだ。
旋網に禁止区域の操業をやめて貰わないかん。

せめて産卵期だけでもやめろと言いたい。夜やから一網打尽やでな、タイもイナダも獲ったるで…。

それにもう一つ、アワビを夜間、盗みに来るのだ。これはジェット船中の活簀の底から海中に潜り出て、浅瀬でも深みでも自由に潜れるから、見付かると、直ぐに船に戻り、40ノットの猛スピードで逃走できる。とても太刀打ちできない。

編者寸言

今日人間が自分勝手に造れないものは、海や河川の漁業(漁撈)の対象だけでしょう。これこそ野性そのものです。人間には絶対その野性が生きていくための素として不可欠だというのが私の自分勝手な、でもかなり自信がある意見なのです。その漁撈の原点が釣りではないでしょうか。それで一年中暮せる世の中が、最も人間的に健全な生き方の筈です。

そこにまた、遊魚という対立者があります。この方が金に目をつけずに釣り行為のみを楽しむ。昔の本を見るとお金持ちの道楽だったのですが、いまはごらんの通り。

生計と遊戯を同じ場で論ずることができるでしょうか。私は、勿論生計派ですが、これからは、同じ舞台に立って、各々を主張していく協議制が盛んになるようです。行政もその方向へ進むことでしょう。国民の中で遊漁者の数が圧倒的に多いことが理由となるのです。そこで多数決となればどうなるでしょう。私はこうした数だけで物事を決めることに懸念を捨てることができません。では、どうしたらよいか。具体的にはまだはっきりしないのですが、基本的な考え方としては、どちらが海を、また魚を大切にするか、自然を荒らさないかにかかると思います。