三重県津市にある「みえぎょれん」のサイトです。「みえぎょれん」や三重の海の紹介、お魚を使った料理レシピも掲載してます。

片田漁協 太田一男さん、平賀楠子さん、高橋和江さん

聞き手/編者:元三重大学水産学部教授 内藤一郎氏

三重県 浜の声:海女漁業

海女は今、107人おる。若い人で27歳、最年長者で78歳、だんだん減って来ているの。新規の人がいないのでなぁ…片田に住む人が減っているわけではなくて、海女以外に旅館とか電機工場、スペイン村あたりまで出かける。(パートで)車で迎えに来てくれるから…。

海女が敬遠されるのは自信が無いからだと思う。若い時からやっとらんと、引け目を感ずるもの。私等の若い生徒の時は、海へ行って泳げ泳げと言われたもので、よく泳いで遊んだのよ。今の子供は、学校や親が海で泳がせなくてプールへ行けと言う。時代の流れで、そうなってしまった。娘に磯へ行って泳いで来いと言うが、学校で叱られると言って行かない。

それより、この頃、男海女(海士)が増えたんよ。それは今まで磯着だけやったでしょう、それで男は入れなかったんだが、それがウェットスーツを着るようになって海士が増えたわけです。

不景気になってから少し増えたみたいよ。

編者:スーツを着るようになったのはいつからですか?

10年以上になります。磯着だけでは、寒期にあっても肥満している人は、痩せている人に比べて潜る時間が長いから、獲れ高が違います。倍近くも獲るから、差が大きくなって不公平になる、ということで認めることになったの。私らは反対したのだけど。なにせあれは鉛を着けないと潜られないでしょう。体重に合わせて鉛の数を加減する。それで腰を傷めてしまうのさ。腰が悪うなるな。ちょいとでも軽いとさ、浮いてきて降りにくいのさ。わたしらな、水温が高い時は今も着てない。身体が軽いもんな。

わたしは、あれを脱いだらいられない。10分もよく入っていられない。

そこで長く入っていられるようになったので、潜る時間を制限してるのさ。春(4~5月)には1時間、6~7月は朝1時間半、昼から1時間、7~9月は、朝も夜も1時間半に決めてあるんの。スーツだと6月まではな、時間が短くても入った時と上がる時は一緒の寒さで上がれる。そこで見つけただけ物を獲れるの。ところがスーツを着ない時は、いくら獲物が居っても寒くて、いられないので獲らないの。昔の人は、そういうことを守って来た。いいこともあるけど、悪いこともあるのですよ。

アワビはだんだん減ってる思う。昔から、この石の下には何時行っても居りよったんが、この頃は見やんもん、探してもなかなかおらんがね。それだけ少なくなったいうことさ。それにつられて眼の方が悪くなってきてるだろ、だから海士はよく採ってきても、我々はよく採って来ないもの。それだけ男は若いから眼がよく見えるんだわ。男は10人ぐらいで、25~26歳から上は50歳までかな。

今、クロがすごく減っている。海士は主にクロを獲るので…

それは眼もいいし、力もあるからな…採り易いとこに居れば、女子等でも採れるけどな、ちょいと奥とか難しいとこに居んのは,女子は手を出さないわ、それが海士は手を出して、とことん採って来る、力の差だなあ。

底にある大きな石でも、女はよく持ち上らなくて、海士は、よくひっくり返すのです。

ほんとは、そんなことをしたらいかんのだけれど。前のままにしておけ、と言うんだけど、言うことをきかないのさ。漁場っていうものは、一度いじると、絶対もうその石には何でか、アワビが付かないのや、アワビを絶やすということになるのじゃないか。

海士が居らん時は、アワビが居ってそのときは採りにくうても、この次に来りゃいいわと、まあ取らないで次に行くと、奥から出てきているんで採りやすい。それが海士が出てきてからは、いつ行っても姿が見えないもの。

編者:そのようなことは、海女組合で決められませんか。

それは、海女ができる以前から決めてあるのだけれども、守られない。海士だけでなくて、海女もやるので困る。悪いのは、重錘にロープを巻いて掘り起こす奴もおる。

主に沖側が海女で、海士は陸側を潜る。海士が流行り出したのは6~7年になるか。その前からも数は少ないが、やっていた。やっぱり、陸との稼ぎと海での稼ぎは違うのでなあ、その時は稼いでも(陸では)将来性が無いのでなあ…女は親の施しの足らん分を補っていけばいいんやけど、男は自分の身上を作っていかないかんでなあ、それやで男は真剣になるのよ。

アワビが減ったのは、どこかへ動いていってしまったということと違うか。死んだ貝殻を見やしないじゃないか

そうやでのう、潮の加減が原因ともみられると思うんさ。

底のどこか見えんとこに潜っておって、出て来やせんのや。

アワビが泳ぐと聞くなあ。

そうや、大群で泳ぐと言うじゃないか、一つの貝が泳ぎ出したら、連れ舞って、ドーンと一斉に泳ぐと言う。なあ…すごい速いんだって、私の母親も海女をやっていて、御座から紀州にかけて採りに行って、一辺、熊野の方で出返りに遭うて、吃驚したんだって。そいで「とまえ」している人がなあ、「先へ出て来たアワビをコツンと殴れ」と言うのや、そしたら叩かれたアワビが下へ落ちて、他のアワビも一斉に底へひっ付いたんだって。それを皆がノミを使わんと素手で拾うたと。そういう事もあるのでな。

群れになって泳ぐ話は、わしも若い頃聞いた。もし、それがほんまなら、もっと大漁する所がある筈だがな…そんなことは聞いたことが無い。

それは潜る漁場とは違う場所なんだ。

二枚貝はよくあるな、貝殻をバタバタさせて泳ぐところをよく見かけるがアワビも稚貝のうちならあるかも知れんが、大きくなってから、ほんまかいな。

片田で大漁するやろ、そうすと和具の海女がな、和具のアワビが片田へ向けて泳いで行ってしまったと言う。(笑)

鳥羽から南島までの組合が集まって、養殖研と試験場の人もみえて会合があったんだが、その時の話では、アワビは大漁の年と不漁年は、山と谷があって、その間隔は20年周期らしいな、…平成7~8年が谷になるのか、この周期からすると今年から来年に掛けてが上昇気運になるという話やった。

昔と違うてな、眼鏡は老眼をひっ付けるようになったのさ、もう1つレンズを張り付けて貰うのさ、そのままだと、ボヤッとしか見えないのや。

このままで行って、若い後継者が無くなって来たら、アワビが居ても、年々物が見えんよって減少するばっかりやな。

男は増えるやろうが、地元だけでは、他所へも出かけて行くんで、女衆のように、ここにだけ居るのではないから、そんなには増えないと思う。

編者:ここでは潜る人の定数は決めていないのですか。

はい。それよりも、減る方を心配しなくてはいかんので、成り行きに任せてよいと思う。そやないと、他所から潜りを頼まないといかんことになる。

編者:そうするとアワビの資源が減っているのと、採る人が減ってきているのとは、どちらが問題ですか。

今のところは、アワビの減っている方が早い。

人数は変わらないのだからな。アワビの量のほうが問題でしょう。
以前には遠州灘に冷水塊があったでしょう。あの当時の方が沿岸漁業には最適な環境だったように思う。それが黒潮が直進するようになってよくなかった。高水温か、まだ沿岸の浅瀬には藻が生えますもの、時としては沖へ出るが…。

水温によるのが大きいうように思うがね。

アワビが孵化して、稚貝になって育って行くのも水温が一番大きいのと違うやろうか。

年貝になるのに、こっちの小さいのは深場にやるなと言うのに、みな死んで行くのに…

あれが不思議でならないのよ、あんな深い所へやって、何になるのよ、今年は石を入れて稚貝を沈めてあるのよ、沖へやったらいかんよ、陸へ寄せないかんよ。

この間、皆で千葉の千倉へ行きましたんさ。千倉が7つの組合が合併して、1m四方のコンクリート板の6ヶ所くらいに直径5cmの臍を付けるらしいが、どうしてそうしたのかを訊ねたら、どっちへ転んでもアワビの厚さ分だけ隙間ができるから、潜り込みやすくして魚礁を輪採しやすくしてある、とのことだった。
やった所には赤旗を立てて、ここは入ってはいかんと。最初はある程度深い所ではないと人に捕られるという声が大きいのでそうしたが、まあ、居らんようになってしまって、それで浅い方へ移したら大成功だったという。

それなので、浅い方へ移せと言うのだが。言う事聞かん。

自分が捕り易い方へばっかり持っていくのでは。

浅いとこへ活ければ、自然と大きくなれば深い所へ移って行くと言うのに聞こうともしないもの。

私からもよく言うとくわ。

編者:アワビの口開けはいつですか。

3月上旬、10日前後です。日柄をみて決めます。隣近所で早い所があるんですよ。早ようせんでもいいのに急ぐんでなあ、日を合わせるようにする。

編者:それは海女組合で相談して決めるのですか。

片田は、海女組合でなく、「とまえ」だけへ相談するのや、海女へは連絡も相談もない。片田はな、「とまえ」が大将。

今年から組合へも相談があるようにしたのよ。

アワビの禁漁区というのは、海女時期に入ったからいかんいうところが1ヵ所ある。その決める時にもう1ヵ所という話もあったが、1ヵ所を決めるのにもかなり揉めた。

片田は以前にも輪採区11ヵ所もあって、3年に1度ずつ1ヵ所または2ヵ所を開けるやり方をしていた。また、8年ほど前に、これではあかんということになって,他も禁漁区を作ってきた。アワビを活けるにも、自村一般のとこにも、直ぐに採ってこれる便利さがある。そこで海女とエビ網の代表を選んで相談してもなかなか決まらない。その時に絶対反対やと言う奴に何故と聞いたら、来年に海女やるかどうかも判らんから、と言っておきながら未だにやっとるんや、80超えてるのに…ということで、1ヵ所でも決まらんのに2ヵ所なんてとても、ということでお流れになった経緯がある。禁漁区を、もう2、3ヵ所つくるのが一番いいんやけどな。
町内で片田は海岸線が一番長いのさ。よって磯物が多いんよ。物も充分あるんやが、部落根性が直きに出てくるんでなぁ、昔はここらの漁場の勢力はものすごく強かったんやが、今はもう大概大概で平等になったな。ただ人間が多いというだけで、今、ここが一番いいとこなんや。アラメの付く頃になると、素晴らしいアラメの生え具合で、ええんやが、潮が速いんで流されて仕事が出来ないとこさ。

漁場の価値としての広さは、御座には負けるが、他には比べものにならんくらいなんさ。和具の町は人も多い代わりに漁場も広いで…和具のエビの揚り方は大したものですよ、恐らく1t半揚がって、8丈掛けているのを5丈にしたんやが値が安いよって、困っているわな。イセエビの揚がるのは和具が一番多いんですよ。

編者:アワビの値段はどうなんですか?

今年の値段は安かったな、あとでチョイと上がってきたけど…

今年のイセエビの値の下りようほどではなかった。

漁が無いのに値段が安いときているだろ、それにまるで沖へ出られんかったんさ。それで悪いことが三拍子揃うた。

7月19日から丸々延26日、沖へ出られなかった。仮に半分の15日行っとっても…200万としても15日で3,000万違うてくる。

編者:アワビは漁獲共済の対象になっているでしょう、入ってませんか。

入れるけれど、昔みたいに期限を一括してやって…和具が、税務署にやられてから共済がやかましく言うんやが…個人でこの子は5万円、この子は3万円と徴収せないかんわな、掛け金を…エビ網の20人でさえ、すったもんだ言うやんか。それを100何人を寄せて、出せ言うても絶対応じない。共済が安いので、何百万やでなぁ…。

制度そのものは宜敷しいけれど、いい時に掛けていないもんでなかなか受け入れて貰えない。布施田や越賀は10年間無事故で表彰を受けているが…普通で500~600万、一寸いいので80%になると800万ぐらい掛けないかんからなあ。

ここでも半数ぐらいの人数で漁獲がそのくらいあると簡単に掛けられるがなぁ…

今までに、よぅけ稼いでおいて、冬場にパートやっとるんと違うか。よう貯めてんのやろ。

そんな余裕ありますかね。

ほんとに今年は一番悪かったな、これが底や。

スーツ着とるお陰でな、ナマコへ行けるのさ。この前浜でナマコは時間制限が無いよって2~3時間粘る。あんまり冷たいとな、ナマコは石の下に隠れていて出てきやせんの。

泥間にも潜るらしいな。湾内でアオナマコで、布施田が桁曳きをやっているが、ここではそんな漁師はおらん。

わし等がアオナマコを拾うてきても、誰も買うてくれへんわ。(笑)

編者:今頃聞くのは申し訳ありませんが、片田の漁業は何がありますか?
また海女漁業の兼業はどうですか?

海女、エビ刺網、小型定置(壷網)、大型定置、一本釣、養殖は真珠、ヒオウギ。その中で海女の兼業はエビ刺網とその手伝い、土建業者に雇われ、その他に貝掃除していたが、この頃はリストラであかん。

私は、別荘地の草取りと陸の仕事、12月20日から2月一杯ナマコ採り、3月からアワビ採り。

私は海女一本。したくても雇ってくれることがないもん。不景気で…

編者:海女漁業のタイプを教えてください。

同じ海女でも、一本引きは往復、重錘を使う。それから船の大きさによって3~5、6人と桶、錘を乗せ、一定の所へ着いたら一斉に降ろして邪魔にならんとこへ錠をやって待機する。それと1人の船頭に2~3人乗って、行く時だけ重錘で行って、帰りは自力で上がって来る組がある。

このほかにジプシー言うて陸側へ寄ったり、あっちへ行ったり一定の区域を持たないグループがあるから、4種類ある。

今はないが、昔はこれにもう一つ「船底蹴り」があった。これはどういうのかというと船で3人ぐらいを乗せて行くでしょう。今の3人は重錘を付けているが、その人らは鉛を付けないで、潜る時に船の底を蹴ってその反動で推力を付けるやり方ですよ。

編者:アワビの種苗の放流や、中間育成場は増加しなくてはいけませんか。

放流しても蓄養する場所がないといかんでしょう。毎年かなりの大きいものを買うてくけどねえ。(5~6cm)

サザエは直ぐ大きくなるが、アワビは急に大きなりにくいでしょう。でもサザエも、去年はおったのに今年は何もおらん。

一昨年だったか、80~90㎏獲れよったが、去年から少なくなった。

編者:今年のアワビの価格はどうでしょうか。

そうやな、量が最低やのに値段も最低やろう。それやで収入が1日行って、日雇賃になりかねてくるだろぅ。それに天気も悪かったで…それやで今年は何も水揚げがない。

編者:普通の年で、片田の海女の年収はいくらくらいですか。

さっきの4種の海女が居るよって、皆違うわな。均らして500万にはとてもとても。経費は栄養剤にようけかかるわ。あと船持っとると油や何やかやとかかるけど、私らはスーツと薪とそのくらいかなあ。スーツは毎年替えてるよ。始末する人は2~3年も続けて着る人もいるけど。

女子の言う事を男が聞いてくれるといいんのだがなあ。女の考えと男の考えていることが違うだろう。私らは1月からアワビが開いているので、スーツを着るよってにその天気が揃うときに水揚げがしたいわけさ。どうしても6月になると天気が変わって揃わんわな。それやで私らはなるたけなら早く開けて貰って、いい時に採れるようにして貰えば収入も上がるし、少しは休みも取れるよ。男らはそんなこと考えてもくれんわ。

編者:今そういうことは誰が決めているのですか。

浜々に1人ずつ責任者がいる。片田で4人居るの、その人らが日にちを決めるんやが、横から言うのがいてその人達だけで決めさしてくれんのさ。海女の「とまえ」が決めてくれることになってんの。

わし等がいくら、こうしてくれと頼んでも通さしてくれないもの。しかたないなあ。

女が強いというのはハタやマスコミが騒ぐだけで、ほんまは弱いものなんやな。(笑)

編者寸言

アワビ漁業は獲られるアワビも獲る人も、どちらも生きるための状況が変わりつつあると改めて知らされました。その一面ですが、男性の海士が増加傾向にあるということは、伝統的な片田であるだけに驚きでした。

今後のアワビ漁業は効率化の方向へ進むのでしょうか。平等と競合の微妙な調和が生み出した、沿岸漁場の利用の一つの典型であるだけに、アワビ漁業のこの変化は沿岸漁業全体の、資源の合理的利用のあり方について大きな問題を孕んでいることを示すものと思います。といって後ろ向きに考えるわけではありませんが、技術の発展を人間のあり方を無視して安易に取込まないで、その時の状況に応じて選択してきた、これまでのアワビ漁業の基本的な考え方は依然重要だと思います。